学生のころ、T-SQUAREやCASIOPEA、MALTAなんかのフュージョン系音楽をよく聴いていました。どこか都会的で、スピード感があって好きだったんですよね。そこから、アルトサックスをかじってジャズにも興味を持って…。全然詳しくはないけれど、いまだにフュージョン・ジャズは大好き。そんな私に刺さったのが、この小説です。
神戸元町の空気と音がリンクする
今回紹介する小説の舞台は、神戸・元町の高架下。今は再開発が進められ、昔の面影が少なくなっていますが、昼間は雑多な空気が漂い、夜にはちょっと影のある雰囲気が広がっていました。観光ガイドにはあまり載らないけれど、地元の人間には愛称「モトコー」と呼ばれる、なじみ深いところ。
この小説は、その高架下にあるジャズバー「JAMZ」を中心に進みます。ここに集まってくるのは、定年を過ぎた元サラリーマン、元ヤクザ、純粋にプロのミュージシャンをめざす女性などなど…。歩いてきた人生は様々だけれど、彼らを結びつけているのは、たったひとつ、「ジャズが好きだ」という気持ちです。
音楽が共通言語になる瞬間って、確かにある気がします。全く知らない人どうし、言葉は少なくても、同じ音を聞いているだけで笑顔がこぼれて気持ちが伝わる。そんな空気が、この小説には満ちています。
読み進めるうちに、自分も「JAMZ」のカウンターに座って、好きなお酒を片手にサックスの音に耳を傾けているような気分になる。それくらい、元町の高架下とジャズの空気がリアルに、魅力的に描かれています。
フィクションの中にあるリアルな出会い

この小説を読みながら感じたのは、「こういう出会い、現実にもあるかもしれない」という妙なリアリティでした。登場人物たちは、普通の暮らしの中では、だぶん交わることのない背景を持っている。サラリーマンだったり、ミュージシャンだったり、訳ありの過去を抱えていたり。でも、あの店の空気と音楽が、彼らを一つにしていく。
なかでも印象的なのは、音楽を通して少しずつ距離が縮まり、互いの価値観や痛みを理解していくストーリー。ジャズのアドリブ演奏のように、相手の呼吸を読み合い、ぶつかりながらも徐々に心が重なっていく感覚が丁寧に描かれています。
そして、この物語には実在のお店やミュージシャンが多く登場します。神戸を良く知る人なら、「ああ、あの店のことか」とピンとくる場面もあるでしょう。実在の要素がさりげなく挟まれているから、読み手としても自然に「自分ごと」として物語に入り込めると思います。
フィクションでありながら、まるで記憶のなかの一場面のように感じられるのは、舞台が神戸という実在の街であること、そしてジャズという共通項が物語の軸になっているから。たとえば昔、友人に連れられてライブに行ったことがある人や、楽器は挫折したけど聴くのは好きという人なら、きっとどこかで「この感覚、わかる」と共感できる瞬間があるはずです。
今回の小説は・・・
今回取り上げた作品は、神戸・元町の高架下を舞台にした、松宮宏さんの『アンフォゲッタブル』。「2023ひょうご本大賞」受賞作です。実在の場所やお店が数多く登場し、音楽を通じてつながる人々の物語。ジャズの名曲・歴史・ミュージシャン…と、全編にわたってジャズの「うんちく」も満載。街の空気とフィクションが心地よく溶け合う一冊です。
音楽好きなら、きっとこの物語が胸に残ります。静かな時間にじっくりとジャズを聴きたくなるかも。

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