「読まずにはいられなかった」
この言葉は、この小説のためにあるのかも。なにしろ、物語の舞台は私が普段乗っている阪急今津線なのだから。宝塚から西宮北口までの片道15分の短い路線で、いくつものドラマが展開されていく。知っている景色の中で、知らなかった誰かの物語がつながっていく。読み始めたら止まらない、そんな一冊でした。
阪急今津線が舞台の物語
阪急今津線は、宝塚から西宮北口を結ぶ全長わずか約8キロ、各駅停車のみのローカル路線です。でも、この電車に乗ったことがある方ならわかるはず。車窓から見える住宅街、学校帰りの学生、週末の買い物帰りの家族連れ…。日常そのものがつまったような路線なんですよね。
今回紹介する小説は、そんな今津線を舞台にした短編連作小説。電車内やホームで出会う、見知らぬ人同士のちょっとしたやりとりが、次第に物語としてつながっていく構成です。最初は「偶然の重なり」だった出来事が、読んでいくうちに「必然のつながり」であったように思えてくる不思議な感覚。
この小説の魅力は、何気ない日常の中にある“ドラマ”を丁寧に描いているところ。たとえば、隣に座った人の小さなひとことが、誰かの気持ちを変える。何度か顔を合わせるうちに、言葉を交わすようになる。ありふれているけれど、ふと心が温かくなる、そんな瞬間が詰まっているんです。
日常の風景に見えた「つながり」

私にとって今津線は“日常の足”のひとつ。でもこの物語を読んでから、少し見方が変わりました。乗客同士の関係なんて、ただの通りすがり…そう思っていたのが、実は何かしらの「縁」でつながっているかもしれない。そんな風に感じさせてくれるんです。
この小説、恋愛や家族、世代間のすれ違いなど、いろんなテーマを扱っているんですが、どのエピソードにも共通しているのは「ささやかだけど温かい人との交わり」です。心のどこかで傷ついていたり、誰にも話せない悩みを抱えていたり。そんな登場人物たちが、ふとした瞬間に偶然出会った誰かの言葉やふるまいに救われ、勇気をもらう…。
特別な事件なんか起こりません。でも、だからこそリアルに感じるし、登場人物の気持ちが自分にも重なることがある。電車の中でのたった数分の出来事が、人生を変えるキッカケになることもあるんじゃないかなと思えます。
特に印象的だったのが、車内で聞こえる見知らぬ誰かの会話や視線のやり取りの描写。自分がよく知っているはずの場所が、登場人物たちの物語を通してまったく違って見えるんです。普段何気なく利用している電車、気にも留めなかった風景の中で、こんなドラマが描かれるなんて、正直驚きました。
「どこにでもある日常」にこそ、人とのつながりがあって、ほんの少しの言葉や行動が、誰かの背中を押している。そんなことを、優しく教えてくれる作品です。
今回の小説は・・・
今回取り上げた作品は、阪急今津線を舞台にした短編連作小説、有川浩さんの『阪急電車』。電車の中で偶然出会った人々のやり取りが、少しずつつながっていく心温まる物語です。
次に電車に乗るとき、そっと周りを眺めてみてください。あなたの街を走る電車内でも、こんな物語が動き出しているかもしれません。

Sponsored Link
Kindle Unlimitedで、もっと読書を楽しみませんか?
「Kindle Unlimited」は、幅広いジャンルの200万冊以上が読み放題になる、Amazonの読書サービス。
初めてなら30日間無料で利用でき、それ以降も月額980円で、好きなだけ読書が楽しめます。
あなたも「Kindle Unlimited」で、新しい本と出会いませんか。