観光地として人気の京都ですが、実は“小説の中”でも、街の風情や暮らしぶりが色濃く描かれているんです。今回紹介するのは、そんな京都を舞台にした3つのシリーズ小説。日常の中のちょっとした謎や不思議を、温かな人間関係の中で解き明かしていく物語です。どの作品も殺人事件のような重い話や怖い話じゃなくて、骨董、和菓子、コーヒーと、それぞれの世界観を通して、京都の空気感や人情を旅するように楽しめます。
京都の空気を感じる小説
今回取り上げる3作品に共通する魅力は、“日常に寄り添う京都”の描写です。いわゆる観光名所が物語の主役になるわけじゃない。商店街の骨董店や祇園の和雑貨屋、町家の喫茶店といった、ごく日常的な場所が舞台です。でも、その中で出会う人や出来事、風の流れ、言葉の響きに、読んでいるうちに自然と京都の街に引き込まれていきます。
どの作品も、血なまぐさい事件なんかは起きません。登場するのは、忘れられた思い出にまつわる小さな謎や、心に残った違和感、誰かの想いが絡んだ不思議な現象など。いわば、“日常のミステリ”というイメージです。加えて、登場人物たちの関係性も心地いいし、読後には静かな余韻とあたたかさが残ります。
リラックスしたい休日や、寝る前のひとときに、気軽に読めて、それでいてどこか旅気分も味わえる――。そんな小説を探している方には、ぴったりのシリーズです。
旅気分で読める京都小説

それでは、ここから3シリーズ作品を紹介します。どのシリーズも京都の日常をありのままに描きながら、それぞれに特色があって、気軽に楽しめる物語ばかりです。
骨董の謎が導く静かな京都時間
まず1作品目は、望月麻衣さんの『京都寺町三条のホームズ』。第4回京都本大賞受賞作品で、全24巻・累計部数230万部を突破しているシリーズです。
このシリーズの舞台は、京都の寺町三条にある骨董品店「蔵」。骨董の目利きで“ホームズ”の異名を持つ京大生・家頭清貴と、ひょんなことから店で働くことになった女子高生・真城葵のコンビが、骨董にまつわる小さな謎を解いていく物語です。
とはいえ、内容は本格的な推理モノというより、どちらかというと人の気持ちに寄り添う“日常ドラマ”。鑑定を通じて浮かび上がる人間模様、京都の街並みや商店街の空気感、そして少しずつ近づいていく二人の関係が、なんとも心地よいテンポで描かれていきます。
骨董の話って、少し難しそうに思えるかもしれませんが、そこは大丈夫。解説や背景も丁寧で、読みながら自然と「なるほどー」と思える構成になっています。登場する品々も、ただの道具ではなく、そこに人の記憶や感情が宿っているのがこのシリーズの面白さです。
静かな夜にページをめくりたくなる、そんな味わい深さのある物語です。
この作品を、もう少し詳しく紹介しています。合わせて読んでみてください。

京都祇園に息づく優しい不思議
続いて2作品目は、1作品目と同じく望月麻衣さんの『わが家は祇園の拝み屋さん』。こちらも全16巻・累計100万部を突破している人気シリーズです。
舞台は祇園。和雑貨店「さくら庵」で暮らすことになった少女・小春が、“拝み屋”という家業を手伝いながら、人や土地にまつわる不思議な出来事に向き合っていく物語です。拝み屋というと少しオカルトな響きがありますが、この作品の持ち味はむしろ“柔らかくてあたたかい”ところにあります。
登場するのは、あやかしや霊的な存在にまつわる小さな謎や相談ごと。それらに真正面から向き合いながら、小春自身が少しずつ自分を取り戻していく過程が描かれます。恋愛や家族との絆、祇園の人情やしきたりも丁寧に織り込まれていて、物語の背景にある京都の雰囲気を感じさせてくれます。
和菓子やお香、着物といった京都の伝統文化が、物語の中で自然に登場してくるのも魅力。読んでいるだけで、まるで祇園の細い路地を歩いているような気分になれます。
不思議な出来事を扱いながらも、怖さよりも“安心感”を与えてくれるシリーズ。日々の疲れをちょっと癒したいときに、ぴったりの一冊です。
一杯の珈琲から始まる静かな推理
最後は、岡崎琢磨さんの『珈琲店タレーランの事件簿』。全8巻累計250万部を突破しているシリーズ。岡崎さんのデビュー作にして、第1回京都本大賞受賞作です。
「その謎、大変よく挽けました」。この決め台詞とともに、京都の小さな喫茶店「タレーラン」で巻き起こる日常の謎を、若きバリスタ・切間美星が解いていくシリーズです。事件簿と言っても、大事件ではなく、誰かの言葉の違和感だったり、気になる仕草だったりと、日常の中に潜むちょっとした謎がテーマです。
美星は、コーヒー豆を丁寧に挽いて、香りとともに謎を読み解いていきます。相棒となるのは、少し頼りないけれど心優しい青年・アオヤマ。二人のやりとりも物語の魅力で、恋愛が主軸にはなりすぎない、ほどよい距離感がいい。
何よりの特色は、コーヒーの描写。道具や淹れ方の描写が細かく、読みながら本当に香りが漂ってきそうな気分になります。純喫茶という空間も手伝って、京都のゆったりとした時間の流れを肌で感じられる作品です。
“ちょっといい話”と“ちょっと気になる謎”。その両方を、コーヒー片手にゆっくり味わいたい人に、ぜひおすすめしたいシリーズです。
京都の空気を本で旅する楽しみ
京都を舞台にしたこれらの小説は、観光ガイドには載っていない、街の日常や人の心の動きを丁寧に描いています。骨董、和菓子、コーヒーといったテーマを通じて、京都の空気感や文化を、肩ひじ張らずに楽しめるのが大きな魅力です。もちろん、有名な観光名所も随所に登場するので、ちょっとした旅気分にも浸れます。
旅行に行く時間がなかなか取れなくても、本のページをめくれば、そこに静かな京都の風景があります。気分転換したい時間に、今回紹介したシリーズを手に取ってみませんか。きっと、あなた好みの京都が見つかるはずです。

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