「阪神甲子園球場」
阪神タイガースの本拠地であり、高校野球の聖地。私も子供の頃から大の阪神ファンとして、何度も足を運んできた場所。
球場に吹く浜風、響くバットの音、ファンの大声援、たまに強烈なヤジ。いつ行ってもテンションが揚がります。
そして、スタンドから見る完璧に整備されたグラウンドの美しさは感動ものです。
今回紹介する小説『あめつちのうた』は、この球場を整備するグラウンドキーパーのプロ、阪神園芸さんの物語だと知って読んでみました。
『あめつちのうた』
ご当地度 :★★★★☆
非日常度 :★☆☆☆☆
ほっこり度:★★★☆☆
一気読み度:★★★☆☆
余韻の深さ:★★★★☆
甲子園球場とグラウンドを管理する阪神園芸の日常を描く物語。グラウンド整備の裏側も覗けて、その作業の緻密さに感動しつつ、誠実に仕事に向き合う姿が清々しい。
甲子園球場で試合が行われる日、直前の雨で「今日の試合は中止かな」と諦めていたら、あっという間に試合ができる状態にグラウンドを整える。
野球ファンなら誰もが一度は驚いたことがあるんじゃないでしょうか。
実際に甲子園に行くたびに目にしていた阪神園芸さんの姿——トンボがけ、水まき、ライン引き。何気なく見てしまいがちですが、それはただグラウンドを均すのではないんです。
その日の天気を読み、選手の動きや安全までを考え抜いてグラウンドを仕上げる。それが彼らの誇りであり、野球への敬意。この物語を通して、そんな想いが伝わってきます。
阪神の試合前に、阪神園芸さんとグラウンドとの真剣勝負が始まっているようなもの。読んでいると、これが“プロの仕事”なんだと背筋が伸びる思いです。
そんな、グラウンドとの真剣勝負。雨のときにこそ、彼らの真価が発揮されます。
雨が降ればグラウンドは泥だらけになり、試合の開催・続行も危ぶまれる。でも、どうすればベストな状態に仕上げられるかを冷静に判断し、仲間と協力してグラウンドを整える。
そこに派手さはないけど、いざというときにどう動くか。ほんとに実直な仕事ぶりなんです。
雨の日のグラウンド整備って素人目にみても大変そうですが、グラウンド整備の現場では「水を入れて土を締める」という言葉があるそうです。
水を与えなければ、グラウンドはしっかり固まらない。水を与えて、きちんと整備すれば、良好なグラウンドに仕上がる。
それを熟知しているからこそ、雨の降り方や量に応じて、グラウンドを仕上げることができるのでしょうね。
このように、この物語では、いろんな場面で「水を与えることの大切さ」が語られるのですが、これは、なにもグラウンド整備に限った話ではなく、人の成長や人間関係の中でも大切だとわかります。
登場人物たちの人間関係や挫折、葛藤、そしてそこから立ち直って成長するには、やっぱり水が必要なのです。
主人公のお母さんが、こんな風に言います。
「大雨が降って、絶望的な気持ちになるけどね、地面は——大地は雨の前よりもさらに強くなる」
「あめつちのうた」 Kindle版 P190
(中略)
「いろいろな災難や困難があるけれどね、それを切り抜ければ、もっともっと人間として強くなれる。空を見上げると、きれいな虹がかかってる」
この物語は、「雨降って地固まる」と言う言葉がキーワード。誰でも苦労することはあるし、悩みもあるけど、そのときに支えになるのは、”水=人の力”なのです。
誰かを支えたり、支えられたりする関係があってこそ、人は立ち直れるし、強くもなれる。そんな関係は、グラウンドに水を与えて土を育てるように、少しずつ育っていくんだと感じられる物語です。
阪神タイガースの選手が引退する時、こんな風に挨拶します——「阪神園芸の皆様ありがとうございます」——この物語を読んでいると、本当にそんな気持ちになれます。
『あめつちのうた』は、兵庫県西宮市の阪神甲子園球場を舞台に、阪神園芸のグランドキーパーたちの仕事と人間模様を描いた物語。
雨にも負けず、試合を支える姿は、まさに職人技そのもの。地味にみえるかもしれないけど、じんわりと沁みる一冊です。
「甲子園の神整備」と呼ばれるグランドキーパーの技を垣間見ることもできるこの小説は、2022年第1回「ひょうご本大賞」受賞作品。
次の観戦前に読んでおくと、甲子園の景色がちょっと違って見えるかもしれません。阪神ファンだけでなく、すべての野球ファンに、是非読んでほしいです。
この小説、兵庫を舞台にした小説をまとめた、「兵庫が舞台のおすすめ小説10選」でも取り上げています。よろしかったらご覧ください。










