【物語と日常】小説に出てくる食べ物って、なんであんなに美味しそうなのか

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ノートとペンとサンドイッチ

小説に登場する食べ物が無性に食べたくなる。

味や香りまで漂ってくるような描写が、やけに美味しそうに感じる時がある。もちろんSNSや雑誌の“映え写真”を見ても食欲は刺激される。でも、小説のほうが、なぜかもっと美味しさが伝わってくる気がする。

……そう思うのは、私だけなのか?

物語の中には、豪華なレストランの料理もあれば、家庭の食卓に並ぶ素朴な夕飯もある。和菓子、洋菓子、軽食にデザート。さっと食べるシーンもあれば、じっくり味わう時間もある。食べ物が登場するだけで、物語の空気にぐっとリアルさが増してくる。

先日、烏丸紫明さんの『ニシキタ幸福堂』という小説を読んだんだけど、この小説でもそうだった。舞台はサンドイッチ専門店。登場人物たちがレシピを考えたり、食べ歩いたりするんだ。次から次へといろんなお店を巡ってはサンドイッチを食べる。カツサンドにフルーツサンド、そして玉子サンド。

読みながら、すでに”サンドイッチの口”になっていたところで、なんと私のお気に入りのお店が実名で登場しているではないか。これはもうたまらない。

そのお店というのが、阪急・宝塚南口駅近くの『ルマン』。宝塚では知らない人がいないほど有名なお店で、お昼どきには行列ができる人気ぶり。メニューはどれも魅力的なんだけど、中でも外せないのが玉子サンド。

サンドイッチ店・宝塚ルマン

ちょっとレトロな感じのパッケージを開けると、軽くトーストされたパンにふんわりとした玉子がたっぷり。ルマン特製のマヨネーズと玉子のバランスが絶妙で、ひと口食べるとしっとり優しい味が広がる。

たまに(ほんとにたまに…)マヨネーズの味や塩気が強めでちょっと重いかな…っていう玉子サンドもあるけど、ルマンのは違う。見た目はボリューム満点なのに、気づけば一箱ぺろり。コーヒーやスープとの相性も抜群。

私の中では、ルマンと言えば玉子サンドだし、玉子サンドと言えばルマンなんだ。

『ニシキタ幸福堂』の中では、このサンドイッチがこんなふうに描かれている。

最初は見た目から厚焼き玉子サンドだと思ったら、食べたら食感が全然違ってて……。厚焼き玉子よりも柔らかくて、口の中でほろほろと解けて、玉子の味がこれでもかと広がって……」 厚焼き玉子サンドだと思ったら、スクランブルエッグをたっぷり挟んだものだった。

『ニシキタ幸福堂』 Kindle 版. 位置No.1193

どうだろう。ルマンの玉子サンドがどんなものか、もう頭の中に浮かんでくるんじゃないだろうか。細かい特徴をとらえつつ、くどくない。文字なのに、舌ざわりや香りまで伝わってくるような感じ。

この一節だけでも、このサンドイッチが大好きな私にとっては、十分に「美味しそう…食べたい…」と思うわけなんだけど、食べたことがなければ、そこまでは感じないか。

でも、これが物語の中にはめ込まれると、もっと美味しく感じるんだ。

サンドイッチ

たとえば、物語のどんな場面に出てくるのかでも、その食べ物の印象が違うはず。家族で笑いながら食卓を囲む場面とか、天気のいい日に公園で食べるお弁当とか。そんなシーンに寄り添っているからこそ、“おいしそう”が心に響く。もし悲しい場面で泣きながら食べていたら、きっと同じ味には感じないだろう。

小説の中で食べ物が登場するとき、それは単なる“味”や”見た目”の描写じゃないんだろうな。味や食感を語りながら、実は登場人物の思い出や空気感を描いている。だからこそ、読んでいるこちらまで「食べてみたい」と感じるんだろう。

結局のところ、小説に出てくる食べ物が魅力的なのは、味の説明がうまいからじゃない。そこに“物語”があるからなんだ。”物語”があってこそ、香りや湯気がページの向こうからやってくる。

それにしても、小説の中の食べ物は罪深い。夜に読書していると、なぜだか、ちょうどお腹が空いたころに登場する。気づけば冷蔵庫を開けて、なにもないのを確認して、結局コンビニに行ったりして。……まあ、それは小説の“せい”じゃないんだけど。

次の小説には、どんな味が隠れているだろう。
ピリッとスパイスの利いたカレー?
湯気までおいしそうなお鍋?
それとも甘いスイーツ?

とりあえず、今週末のお昼ごはんは『ルマン』にしよう……かな。

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