職場でも家庭でも、ふと「これって、なんのためにやってるんだろう」と思う瞬間がありませんか。そんなとき、少し肩の力を抜かせてくれるのが、寺地はるなさんの小説『ほたるいしマジカルランド』。
この小説は、大阪・枚方市にある『ひらかたパーク(通称:ひらパー)』をモデルにした物語。大阪北部の架空の街・蛍石市にある遊園地を舞台に、そこで働く人たちの一週間を描いた連作短編集です。それぞれのエピソードを読んでいくうちに、「このままでいいんだ」と思えてくる、そんな優しさに満ちた物語です。
遊園地を裏で支える人たちの物語

『ほたるいしマジカルランド』は、月曜から日曜まで、登場人物が曜日ごとに変わる構成。インフォメーションやアトラクションの担当、清掃スタッフ、園芸スタッフ……。どの人も特別ではなく、どこにでもいそうな“働く人たち”です。
ある日、名物社長が体調を崩して入院。園内にはちょっと不安が広がりますが、それでもスタッフたちはいつものように仕事を続けます。
インフォメーションの女性はお客さんに笑顔を見せながら、心の中では「私、向いてるんやろか」と迷う。アトラクション係の若者は理想と現実のギャップに、「なんで、あいつらは…」と思いながらも、淡々と仕事をこなす。
遊園地といえば、家族連れやカップルが楽しそうに遊び、日常からちょっと離れて非日常に浸れる場所。でも、この物語で描かれるのは、キラキラとした遊園地の姿じゃなく、その場所を日常の仕事として裏で支えている人の姿。華やかではないかもしれないけど、ちょっとした会話やふとした優しさに、読んでいてほっとする。そんな空気感です。
「なんのため」を手放して見えるもの

この物語には、いわゆる“仕事のやりがい”とか“自己実現”みたいな教訓めいた話は出てきません。むしろ、登場人物たちはみんな少し迷っている。「得意じゃないけど、やってるだけ」「好きになれないけど、やめる理由もない」そんな気持ちのまま、毎日を積み重ねているんです。
その姿はせつなくも見えるけど、彼らは、ちゃんと誰かを支えているんです。掃除をして、笑顔で案内して、アトラクションを動かす。その小さな積み重ねが、誰かの楽しい一日を作っている。
働く理由なんか説明できなくてもいい。「なんのため」とか考えなくてもいい。誰にも好き嫌いはあるし、向き不向きがあるかもしれないけど、そんなことを気にせずに、“目の前のことをちゃんとやる”という誠実さの中に意味はある。 そうすれば、誰にも自分の居場所はあるし、見えてくるものがあるはず。
この物語からは、そんな静かなメッセージが伝わってきます。
あたたかい”安心感”が残る物語

この物語の終盤にでてくる社長の言葉に、こんな一節があります。
得意なことも苦手なことも、良いとこもダメなとこも違う。抱えてる事情も違う。考えてることも人生の目標も違う。はっきり言います、あなたたちはたぶん自分で思ってるより、ずっとへんだし、ダメです。あなたたちの生かしどころを考えるのが、どこに配置すればいちばん輝くのか考えるのが、わたしの仕事。
「ほたるいしマジカルランド」 Kindle版 P208
人はそれぞれ違うからこそおもしろい。だからそのままでいい。自分のことや、自分の仕事が好きになれなくても、別にいいじゃないか。頑張っている姿はきっと誰かが見てくれているし、活かせる場所が必ずあるんだから——という想いなのかなと思います。
職場でも家庭でも、完璧じゃなくていい。人と比べず、自分のペースでやればいいんですよね。
この物語を読んだあとには、どこかあたたかくて優しい”安心感”が残ります。もし今、「ちょっと疲れたな」と感じているなら、この『ほたるいしマジカルランド』を手にとってみてください。あなたの周りにも、あなたをちゃんと見ている誰かが、きっといます。

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