桂米朝師匠に枝雀師匠、田辺茂一さん、小林一三さんといった”大阪ゆかりの人々”が、天上から梅田・ビッグマン前の広場を眺めながら談笑している。
そんな奇想天外な場面から始まるのが、松宮宏さんの『すたこらさっさっさ』。ファンタジーな物語なのか??と思いきや、これはあくまで序章。
本編は、梅田から始まり、西成・十三・芦屋・宝塚・祇園へと、地域の歴史とともに縁が連鎖していきます。
『すたこらさっさっさ』
ご当地度 :★★★★★
生活実感 :★★★★☆
ほっこり度:★★★☆☆
一気読み度:★★★☆☆
余韻の深さ:★★★☆☆
大阪・梅田を中心に、京阪神の街がいくつも登場します。人との不思議な縁を感じられる、温かくてほっとする物語です。
大阪・梅田のビッグマン前広場と、紀伊國屋書店をモデルにした紀文堂書店。
梅田に馴染みのある方なら、待ち合わせといえばビッグマン前、そしてその横に広がる書店の風景が自然と思い浮かぶでしょう。物語は、この“街の記憶”をうまく織り込みながら進みます。
主人公は、紀文堂書店で働く辻内彩。西成生まれの明るい性格で、誰からも親しみを持たれる女性です。
本が好きで、「今の書店をもっと魅力的にしたい」「自分たちで企画した本を出版したい」という思いで入社した彼女は、ある日、ビッグマン前で亡くなった母の姿を見かます。
あり得ないと思いながらも、夢中で飛び出したけれど、もうその姿は見つかりません。
「そんなことあるわけないよな」と冷静さを取り戻すのですが、これは幻でもなんでもなく、確かに目の前にいた。後々、この出来事が想像もしなかった”縁”で繋がっていきます。
そもそも、彼女が紀文堂書店で働いていることにも不思議な”縁”があったし、親友との出会いも、様々な人々との出会いも、”縁”が繋がっていくところが、この物語の読みどころのひとつ。
物語のように、劇的な”縁”ではないかもしれないけれど、小さいながらも”縁”を感じることってありますよね。
友達の友達が知り合いだったとか、思わぬ場所で何年も会っていなかった人に会ったとか。
単なる偶然といえばそうなのですが、それも何かの”縁”だとすれば、一つひとつの出来事が貴重なことなのだと思えます。
そして、この物語のメインストーリーではありませんが、要所要所でビックマンとともに登場する本屋さんも、物語にとってなくてはならない場所です。
物語では、本に向き合う人々の姿勢がさりげなく織り込まれ、書店の存在意義もこんな言葉で触れられています。
「本屋は《パブリック》。目的がなくてもふらりと入れる場。何も買わずに店を出ても許されるのに、そこで時間を過ごすと前向きな気持ちになって帰路につける。本屋は町再生の象徴になる」
『すたこらさっさっさ』 Kindle版 P87
本屋さんの役割や形は変わってきたかもしれないけれど、本屋さんは”街になくてはならない場所”であり、”残り続けるべき場所なのでは”というメッセージが感じられます。
人とのつながりは意識しすぎると重たく感じることもあるけれど、もしかしたら、そこには不思議な”縁”があるのかもしれません。
『すたこらさっさっさ』を読んでいると、ほどよい距離感で丁寧につながる大切さを感じます。
そして、本屋さんでも”縁”はあるはず。それは人との”縁”かもしれないし、本との”縁”かもしれない。
ふらっと立ち寄るだけで気持ちが整う場所は、そう多くありません。最近本屋さんが減っている現実もあるけれど、やっぱり街には変わらず本屋さんがあってほしいです。
梅田の再開発も進み、街が新しく生まれ変わっていく今、天上の人々は、どんな思いで眺めているのだろう、とふと思いました。きっと驚きながらも喜んで見てくれていますよね。










