松宮宏『すたこらさっさっさ』~ 大阪・梅田がつなぐ“縁”の物語

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梅田の夜景

桂米朝師匠に枝雀師匠、田辺茂一さん、小林一三さんといった”大阪ゆかりの人々”が、天上から梅田・ビッグマン前の広場を眺めながら談笑している。

そんな奇想天外な場面から始まるのが、松宮宏さんの『すたこらさっさっさ』。ファンタジーな物語なのか??と思いきや、これはあくまで序章。

本編は、梅田から始まり、西成・十三・芦屋・宝塚・祇園へと、地域の歴史とともに縁が連鎖していきます。

目次

大阪・梅田をめぐる物語の舞台

JR大阪駅

中心となるのは、大阪・梅田のビッグマン前広場と、紀伊國屋書店をモデルにした紀文堂書店。梅田に馴染みのある方なら、待ち合わせといえばビッグマン前、そしてその横に広がる書店の風景が自然と思い浮かぶでしょう。物語は、この“街の記憶”をうまく織り込みながら進みます。

主人公は、紀文堂書店で働く辻内彩。西成生まれの明るい性格で、誰からも親しみを持たれる女性。本が好きで、「今の書店をもっと魅力的にしたい」「自分たちで企画した本を出版したい」という思いで入社した彩は、ある日、ビッグマン前で亡くなった母の姿を見かけたのです。

あり得ないと思いながらも、夢中で書店を飛び出す彩。でも、もうその姿はどこにも見つかりません。「やっぱり、そんなことあるわけないよな」と冷静さを取り戻すのですが、これは幻でもなんでもなく、一瞬でも確かに目の前にいた。後々、この出来事が想像もしなかった”縁”で繋がっていくのです。

キーワードは「縁」と「本屋」

手をつなぐ

そもそも、彩が紀文堂書店の社員となり、梅田本店で働くことになったことにも不思議な”縁”があったのです。親友となる麻里との出会いも、様々な人々との出会いも、いろんな”縁”が繋がっていくところが、この物語の、ひとつの読みどころ。

物語のように、劇的な”縁”はそうそうないのだろうけれど、小さいながらも”縁”を感じることってありますよね。友達の友達が知り合いだったとか、思わぬ場所で何年も会っていなかった人に会ったとか。単なる偶然といえばそうなのですが、偶然じゃなくてそれも何かの”縁”だとすれば、一つひとつの出来事が貴重なことなのだと思えます。

そして、もうひとつ大切な柱となっているのが、本屋さんという場所です。物語には書店の歴史や存在意義が織り込まれ、本に向き合う人々の姿勢がさりげなく描かれています。

物語に出てくる紀文堂書店でのエピソード、実はこの物語のメインストーリーじゃありません。でも、要所要所でビックマンとともに登場して、物語をしっかりと支える大切な場所となっているのです。

物語には、こんな言葉が出てきます。本屋さんの役割とか形は変わってきたかもしれないけれど、本屋さんは”街になくてはならない場所”であり、”残り続けるべき場所なのでは”というメッセージが感じられます。

「本屋は《パブリック》。目的がなくてもふらりと入れる場。何も買わずに店を出ても許されるのに、そこで時間を過ごすと前向きな気持ちになって帰路につける。本屋は町再生の象徴になる」

『すたこらさっさっさ』 Kindle版 P87

変わるもの、変わらないもの

グラングリーン大阪

人とのつながりは意識しすぎると重たく感じることもあるけれど、もしかしたら、そこには不思議な”縁”があるのかも。ほどよい距離感で丁寧につながるのが大切なのかもしれません。

そして、本屋さんでも”縁”はあるはず。それは人との”縁”かもしれないし、本との”縁”かもしれない。ふらっと立ち寄るだけで気持ちが整う場所は、そう多くありません。最近本屋さんが減っている現実もあるけれど、やっぱり街には変わらず本屋さんがあってほしいです。

梅田の再開発も進み、街が新しく生まれ変わっていく今、天上の人々は、どんな思いで眺めているのだろう、とふと考え思いました。きっと驚きながらも喜んで見てくれていますよね。

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