近藤史恵『おはようおかえり』~ 家族の想いが過去と現在を繋ぐ

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練り切り

日々の暮らしの中で、家族との関係にふと立ち止まる瞬間ってありませんか。言葉にしなくても伝わる想いもあれば、逆に小さなすれ違いもある。そんな“家族のリアル”を描くのが、『おはようおかえり』です。

大阪北部にある老舗の和菓子屋を舞台に、姉妹と家族の絆をめぐる物語。ちょっと不思議な出来事をきっかけに、過去と現在、そして人の想いが静かに交わっていきます。

目次

大阪の和菓子屋で起こる不思議

三笠

大阪の北部にある和菓子屋「凍滝(いてたき)」。

母親といっしょに店を切り盛りする姉・小梅と、自由な夢を追いかける妹・つぐみ。性格も生き方も正反対の姉妹です。物語は、つぐみが、亡くなった曾祖母の口調で、突然話し出すところから始まる。周囲が戸惑う中で、家族の中に埋もれていた“ある記憶”が少しずつ浮かび上がってくるんです。

亡くなった人の魂が乗り移るという、ちょっと不思議な物語だけれど、描く世界はあくまで「日常」。和菓子をつくる手の動き、商店街のざわめき、梅田や北新地の賑わい。大阪らしい温度のある描写には、普通に暮らす人と街の空気感が伝わってきます。

現実から逃げずに向き合うこと

最中

物語が進むにつれ、姉妹は「過去の出来事」と向き合うことに。ひいおばあちゃんから、生前心残りにしていた“ある手紙”を探すことを頼まれるんです。でも姉妹にとって、それはただの手紙探しではありませんでした。その手紙に込められた想いをたどるうちに、家族の歴史や、それぞれが抱えてきた気持ちと真正面から向き合うきっかけになったんです。

小梅は、店を継ぐ責任感と、自分の生き方への迷いの間で揺れているし、つぐみは、夢を追いたい気持ちと、現実とのギャップに戸惑いもある。両親やおばあちゃんもまた、過去の決断や言葉にできなかった想いを胸にしまいながら生きている。そんな家族の姿が、ひいおばあちゃんの「伝えたかった気持ち」と重なっていきます。

ひいばあちゃんが伝えたかった気持ち、それは”現実と正面から向き合うこと”かなと思います。手紙を探す中で、姉妹はお互いを理解し、家族と改めて向き合っていく。そして物語を読んでいる私たちにも、”自分の家族や過去の選択と向き合ってますか?”と問いかけているように感じました。

家族とのあたたかい繋がりを思う

和菓子

この物語で印象的なのは、小説のタイトルでもある「おはようおかえり」という言葉。最近はほとんど聞かなくなったけれど、「いってらっしゃい、無事に帰ってきて」という意味です。

単なる「いってらっしゃい」の挨拶じゃなくて、出ていく人を思いやる気持ちが込められたこの言葉。”別れと再会”とか”過去と現在”とか、すべてを包むような言葉だと思います。ひいおばあちゃんもまた、ひ孫に乗り移ってまで、この言葉のようにいつまでも人を思いやり、家族を気遣っていたんでしょうね。

小梅、つぐみ、そして家族が、これからどうなっていくのか。この物語では描かれていないんですが、少しぐらい離れていても、ちょっとすれ違うことがあっても、きっと繋がりは簡単に途切れたりはしないはず。

家族や人間関係に少し疲れたときや、「自分はこのままでいいのかな」と迷ったときに読んでみると、ちょっと前向きになれる。そんなことが感じられる、あたたかい物語でした。

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