この記事では、瀬尾まいこさんの作品『そして、バトンは渡された』を紹介します。
一人の女性が成長する姿を通して、「家族って何だろう?」そんなシンプルだけど深いテーマを描いた作品。
読後には、ほんわかとした温かい気持ちが広がります。
『そして、バトンは渡された』はどんな本?
『そして、バトンは渡された』は、2019年本屋大賞を受賞、さらに2021年には、本作を原作として、永野芽郁さん・田中圭さん・石原さとみさんなど、豪華キャストで映画化されました。
一見複雑な家庭環境だけれど、そこには血の繋がりを超えた確かな家族の絆が描かれています。
あらすじ
主人公の森宮優子は、親の死別や離婚・再婚で、父親が3人、母親が2人いる高校生。
傍から見れば複雑そうな家庭環境で育った優子は、新たな環境になるたびに、多少戸惑いながらも、新しい家族と特に不自由もない生活を送っています。
優子が大きな不安や心配もなく暮らしていけるのは、それぞれの親たちが、それぞれのやり方で、彼女の成長を温かく見守ってくれていたからでした。
そんな暮らしの中で、優子は自分の進む道や幸せを見つけます。
『そして、バトンは渡された』レビュー
親の都合で、17年間で7回も家族の形が変わるなんて聞くと、なんて不幸で複雑な家庭環境なんだと思いませんか?
たいてい、暗くてちょっとドロドロした感じのストーリーをイメージしそうです。
「親に大事にされず、いつも孤独で、一人で悩みを抱えて閉じこもるように暮らしている」みたいな。
でも、この小説は違うんです。
第1章の書き出しから、「困った。全然不幸ではないのだ」と始まります。
優子の周りの人たちは、「何か困ったことはない?」「悩み事は人に話したほうがいいよ」と、「複雑な家庭環境だから何かと大変なんだろう」が前提で聞いてくれるのですが、どう答えればいいのかわからずに困っているんです。
優子が無理しているのではないですよ。
本心からそう感じているんです。
不幸ではないことに困るって、もう幸せしかないです。
小説を読み進めると、優子がこんなふうに感じられる理由がわかってきます。
それは、コロコロ変わるけれど、優子のことを一番に考えてくれる親の存在。
どの親たちも、みんないい人なんです。
それぞれにやり方は違うし、迷いもあるけれど、誰もが優子を大切に思い、寄り添ってくれています。
例えば、2番目の母親である梨花さんは、優子のためならなんでもする大胆な行動力と優しさがあるし、3番目の父親である森宮さんは、不器用でちょっと頼りなく見えるけれど、優子を正面からしっかりと受け止めてくれる。
もちろん、優子自身も素直に前向きに、それぞれの親に向き合っているからこそ、幸せに感じられるのですが。
血の繋がりのない、いわゆる「普通の家族」ではないのかもしれないけれど、相手を思いやり支え合う気持ちがあれば、ちゃんと「家族」なんですよね。
梨花さんと森宮さんが、いかに優子のことを大切に思っているか、そして優子の成長を見守ることが、二人にとっても幸せなことなんだと感じる場面が、優子と森宮さんとの会話に出てきます。
「梨花が言ってた。優子ちゃんの母親になってから明日が二つになったって」
「明日が二つ?」
「そう、自分の明日と、自分よりたくさんの可能性と未来を含んだ明日が、やってくるんだって。
親になるって、未来が二倍以上になることだよって。」
(中略)
「梨花の言うとおりだった。優子ちゃんと暮らし始めて、明日はちゃんと二つになったよ。
自分のと、自分のよりずっと大事な明日が、毎日やってくる。」
そして、バトンは渡された Kindle版 P.274-275
この物語には、何か大変な事件が起こるとか、奇跡のような出来事が起こるとか、そんなものは出てきません。
ごく普通の暮らし、ごく普通の家族の姿が描かれているだけ。
でも、その普通の暮らしにある、なにげない幸せが、軽やかで温かみのある文章で綴られています。
家族の形も、誰かを大切に思う気持ちも、決まった形があるわけじゃないと思える、ただただ温かさが残る作品です。
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