京都の街と三姉妹の姿を描く心あたたまる物語

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鴨川デルタ

『手のひらの京』は、作者の綿矢りささんが、初めて自分の生まれ育った京都を舞台に書いた小説。それがちょっと気になって読み始めたんですが、さすが地元育ちの目線。街の空気や景色の描写がとにかくリアルで、「あぁ、京都ってこんな感じ」とうなずいてしまう場面が何度も出てきます。四季折々の京都を背景に、人の心の動きがじんわり伝わってくる一冊です。

目次

京都に生きる三姉妹、それぞれの今

物語は、京都で暮らす三姉妹が主人公です。長女・綾香は、静かな毎日を送る一方で、30歳を過ぎて将来への焦りがちらっと顔をのぞかせている図書館職員。次女・羽依は大手企業の会社員。仕事はできるけど、職場の人間関係には苦労も多い。大学院生の三女・凜は就職を目前に控え、地元を離れて東京に行くことを考え始めています。

姉妹はお互いに、どこか遠慮がちなところや、不器用なところもあるけど、付かず離れずいい感じの距離感。なにげないことで笑い合ったり、さりげなく気遣ったり。長い時間を仲良く暮らしてきたんだろうなあーと思わせる、京都での日常がこの物語には綴られています。

そして、そんな三姉妹を見守るのが京都の街。賑わう祇園祭や八坂神社、伏見稲荷みたいな有名どころはもちろん、地元目線ならではの、街のちょっとした景色がとても印象深いんです。

例えば、物語の最初一節。凛が鴨川を眺めるシーンは…、

京都の空はどうも柔らかい。頭上に広がる淡い水色に、綿菓子をちぎった雲の一片がふわふわと浮いている。鴨川から眺める空は清々しくも甘い気配に満ちている。

「手のひらの京」 Kindle 版 位置No.13

もう京都のゆったりした風景が目に浮かびませんか。他の場面でも、低い山々に囲まれた京都の街を、「まるで川に浮いていたのを手のひらでそっと掬いあげたかのよう」と感じるとか、観光客が集まる昼間の嵐山ではなく、あえて夜、それも真冬で雪がうっすら積もった渡月橋をバックに、「水墨画の世界」を思わせるとか。観光目線じゃない、京都で暮らしているからこその視点だなぁーと思うんです。

こんな小さな京都の街で、ちゃんと前を向いて進む三姉妹の姿は、なんだか力強く見えます。それぞれに苦労や悩みごとも抱えているけど、のんびりした京都の街と、やわらかな京都弁のおかげもあってか、物語はどこか”ほのぼの”とした雰囲気です。

日常の中に見える人間関係の機微

冬の渡月橋

この物語に出てくるのは、ほんとに日常のちょっとした出来事。舞台が京都であることを除けば、どこにでもあるようなエピソードです。祇園祭の夜に偶然の再会があったり、会社の人間関係に嫌気がさしたり、渡月橋で恋愛が進展したり。こんなちょっとした出来事の中に、人との繋がりや距離感が感じられるんです。

人との距離感って難しいですが、この物語に出てくる人との距離感で印象的だったのは、羽依が同僚の「いけず」に対抗するシーン。羽依は、どちらかというと自分の考えをはっきり言うタイプの女性だけど、会社ということもあって、真正面から言うのは少し躊躇もある。でも最後には我慢ならずって感じで言い放つんです。この距離感と本音の見せ方が、彼女の強さと弱さを同時に感じられて、なぜかすっきりします。

この「いけず」文化。一見やわらかい言い回しの中に、ちょっとした拒絶や本音が隠れている。物語の中では、こんな風に出てきます。

京都の伝統芸能「いけず」は先人のたゆまぬ努力、また若い後継者の日々の鍛練が功を奏し、途絶えることなく現代に受け継がれている。ほとんど無視に近い反応の薄さや含み笑い、数人でのターゲットをちらちら見ながらの内緒話など悪意のほのめかしのあと、聞こえてないようで間違いなく聞こえるくらいの近い距離で、ターゲットの背中に向かって、簡潔ながら激烈な嫌味を浴びせる「聞こえよがしのいけず」の技術は、熟練者ともなると芸術的なほど鮮やかにターゲットを傷つける。

「手のひらの京」 Kindle 版 位置No.972

先ほど「やわらかな京都弁のおかげで物語がほのぼのとしている」って書いたばかりでなんなんですが、よそから来た人にはちょっと怖いのかも。そこを、あえて自虐も含めてなのか、「伝統芸能」と表現してしまうところが、これまた地元出身ならでは。京都の人なら「あるある」と普通に笑えると思うんですけどね。

「いけず」って言葉、最近あまり聞かなくなったけど、本当の嫌がらせをする人に「いけず」とは言わないかも。友達のじゃれ合いというか、ちょっとした悪ふざけに、「ほんま、いけずやなー」って言ってたことの方が多いような…。

静かな物語だからこその味わい

『手のひらの京』は、三姉妹のそれぞれの選択や悩みを通して、彼女たちを囲む京都という街の魅力や、人との距離感を描いた物語。観光客があまり知らない地元ならではの景色や暮らしぶりが、さりげなく散りばめられています。

物語の背景にある、京都の季節感もいい感じ。春は桜、夏は祇園祭に送り火、秋は紅葉、冬は雪景色の嵐山。それぞれの景色が、三姉妹の気持ちに寄り添うように出てくるので、読んでいると「今、この季節の京都に行きたいなー」って思います。

派手さはないけど、読み終えたあとにじんわり残るものがある。そんな物語です。

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