サンドウィッチって、手軽に食べられるけど実は奥が深い食べ物。玉子サンドにカツサンド…、食べていると、昔の出来事や人を思い出す。『ニシキタ幸福堂 なりゆき夫婦のときめきサンドウィッチ』は、そんな優しさや温かさを感じる物語です。
父の店をめぐるウソから始まる新しい暮らしと、サンドウィッチが繋ぐ記憶や人との出会いのお話。そこに、兵庫・西宮の街の空気がそっと重なります。
ウソから始まる“なりゆき夫婦”

物語の舞台となるのは、兵庫県・西宮北口。地元では”ニシキタ”と呼ばれるエリアです。駅前には「阪急西宮ガーデンズ」などの大規模商業施設もあり賑やか。でも少し離れると、落ち着いた住宅街で、おしゃれなカフェやレストランも散在している、穏やかな空気の漂う人気の街です。
主人公の晶は、仕事のストレスや恋人の裏切りに疲れた女性。そんなとき、疎遠だった父親の訃報をきっかけに、父が営んでいたサンドウィッチ店「幸福堂」を引き継ぐことになります。
葬儀後の精進落としの席で、財産相続のことしか頭にない親戚たちに苛立ち、そこでとっさに、店の従業員である諏訪悠人のことを、”一緒に店を継ぐ婚約者”だとウソをついたのがすべての始まりでした。
”なりゆき夫婦”は店を切り盛りしながら、勉強も兼ねて、老舗の喫茶店や人気のパン屋でサンドウィッチを食べ歩きます。でもこの”食べ歩き”の時間は、単なる勉強ではなく、お互いを理解していくための時間になっていく。ウソから始まった関係だけど、少しずつ互いの距離を縮めていく…そんな温かい物語です。
サンドウィッチがつなぐ心

この物語で印象的なのは、晶が少しずつ父の想いを理解していくところです。“どうしてこの店を始めたのか”、”どういう想いでサンドウィッチを作っていたのか”を。
最初は”なりゆき”で店を始めた彼女が、父の作っていたサンドウィッチの味や、店を懐かしむ常連客の言葉を通して、その想いに気づいていく。父はこの店を“自分のため”ではなく、“誰かの笑顔のため”“誰かの幸せのため”に続けていたのだと知るのです。
店を訪れる人たちに聞く父の姿も、自分が知らない父の人柄がにじんでいます。
「人のためにばかり動く人やった。みんなの笑顔が見たいんやー言うて……。」
「いっつも素敵な笑顔で迎えてくれはったからねぇ」
そんな言葉が、晶の心の奥に静かに届きます。「幸福堂」はただの店ではなく、人と人をつなぐ場所として描かれているんです。
晶と諏訪は、そうした人々の話を聞くうちに、自分たちの過去とも向き合っていきます。それぞれに傷を抱えながらも、誰かのためにパンを焼き、サンドウィッチを作ることで、少しずつ心がやわらいでいく。人は、誰かの思い出を通して、自分自身を見つめ直すことができるのかもしれませんね。
日常の中で誰かとつながる

この物語には、美化した感動エピソードとか、涙を誘う悲しい場面があるわけではないです。でも、街のサンドウィッチ店の日常の姿、そこにやってくる人々の姿に、ほんのりとした温かさを感じます。
ウソから始まった関係が、やがて本当の信頼と優しさに変わっていく。一緒にがんばって、一緒にごはんを食べて…こんな普通の時間の大切さを改めて思い出させてくれます。
誰にも、「大切にしたい思い出の味」とか「誰かと過ごした時間」があるんじゃないでしょうか。別に特別な出来事でもないけれど、なぜかふと思い出すこと。この物語は、そんな日常の中で、誰かともう一度つながれるような、ちょっとした幸せを描いた一冊です。
この物語には、西宮周辺に実在する喫茶店、サンドウィッチ店が、いくつも登場します。お店の名前もメニューも本物です。地元では人気のお店なので、西宮あたりを良く知る方なら聞いたことがあるかも。読んでいるだけでも美味しそうだけど、実際に訪れて食べてみるのもいいですね。
そして、この小説にはシリーズ作品があります。「幸福亭」の近くにある、隠れ家のようなおむすび屋さん「満福亭」が舞台。
物語の背景には似通ったところもありますが、シリーズといっても全く別の物語。でも、「幸福亭」と「満福亭」には、ニシキタにある近所のお店というだけではない、意外な繋がりが出てきます。

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