サンドウィッチって、手軽に食べられるけれど奥が深い食べ物ですよね。玉子サンドにカツサンド、フルーツサンド……。シンプルな具材から、ちょっと高級なものまで様々ですが、同じ具材でも作る人によって味も食感も違う。
お店のサンドウィッチももちろん美味しいのですが、家で作った素朴なサンドウィッチも、どこか懐かしい感じがします。
『ニシキタ幸福堂 なりゆき夫婦のときめきサンドウィッチ』は、お客さんに喜んでもらおうと、手作りサンドウィッチを心を込めて作る、サンドウィッチ屋さんの物語です。
父の店をめぐるウソから始まる新しい暮らしと、サンドウィッチが繋ぐ記憶や人との出会いの物語。そこに、兵庫・西宮の街の空気がそっと重なります。
『ニシキタ幸福堂』
ご当地度 :★★★★★
非日常度 :★☆☆☆☆
ほっこり度:★★★★☆
一気読み度:★★★★☆
余韻の深さ:★★☆☆☆
実在のお店が数多く登場し、サンドウィッチのガイドブックになりそうなほど。ちょっと辛い話もでてきますが、人の優しさや温かさを感じて、スッキリとした気分になれます。
物語の舞台は、兵庫県・西宮北口。地元では”ニシキタ”と呼ばれるエリアです。
駅前には「阪急西宮ガーデンズ」などの大規模商業施設もあり賑やか。でも少し離れると、落ち着いた住宅街で、穏やかな空気の漂う人気の街です。
主人公の晶は、仕事のストレスや恋人の裏切りに疲れた女性。
亡くなった父親が営んでいたサンドウィッチ店「幸福堂」を継ぐために西宮に来たのですが、ひょんなことから、店の従業員・諏訪悠人を”婚約者”だとウソをついてしまう。ここからすべてが始まります。
この物語で印象的なのは、晶が少しずつ父の想いを理解していくところ。“どうしてこの店を始めたのか”、”どういう想いでサンドウィッチを作っていたのか”を。
最初は”なりゆき”で店を始めた彼女が、父の作っていたサンドウィッチの味や、店を懐かしむ常連客の言葉を通して、その想いに気づいていく。
父はこの店を“自分のため”ではなく、“誰かの笑顔のため”“誰かの幸せのため”に続けていたのだと知るのです。
店を訪れる人たちに聞く父の姿も、自分が知らない父の人柄がにじんでいます。
「人のためにばかり動く人やった。みんなの笑顔が見たいんやー言うて……。」
「いっつも素敵な笑顔で迎えてくれはったからねぇ」
こんな言葉が、晶の心の奥に静かに届きます。「幸福堂」はただの店ではなく、人と人をつなぐ場所なんだと知ると同時に、自分たちの過去とも向き合います。
それぞれに傷を抱えながらも、誰かのためにパンを焼き、サンドウィッチを作ることで、少しずつ心がやわらいでいく。
人は、誰かの思い出を通して、自分自身を見つめ直すことができるのかもしれませんね。
この物語には、美化した感動エピソードが出てくるわけではありません。でも、街のサンドウィッチ店の日常の姿、そこにやってくる人々の姿に温かさを感じます。
誰にも、「大切にしたい思い出の味」とか「誰かと過ごした時間」がありますよね?別に特別な出来事でもないけれど、なぜかふと思い出すこと。
この物語は、そんな日常の中で、誰かともう一度つながれるような、ちょっとした幸せが描かれています。
『ニシキタ幸福堂 なりゆき夫婦のときめきサンドウィッチ』には、西宮周辺に実在する喫茶店、サンドウィッチ店が、いくつも登場します。
お店の名前もメニューも本物です。地元では人気のお店なので、西宮あたりを良く知る方なら聞いたことがあるかも。
読んでいるだけでも美味しそうだけど、実際に訪れて食べてみるのもいいですね。
そして、この小説にはシリーズ作品があります。「幸福亭」の近くにある、隠れ家のようなおむすび屋さん「満福亭」が舞台。
物語の背景には似通ったところもありますが、シリーズといっても全く別の物語。
でも、「幸福亭」と「満福亭」には、ニシキタにある近所のお店というだけではない、意外な繋がりが出てきます。










