宝塚を走るローカル線で人の温かさに触れる『阪急電車』

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宝塚風景

この記事では、有川浩さんの作品『阪急電車』を紹介します。

電車は日常生活になくてはならない存在。

あなたは、その車内で起こる様々なドラマを想像したことはありますか?

『阪急電車』は、関西のローカル線「阪急電鉄・今津線」を舞台にした温かいヒューマンドラマです。

目次

『阪急電車』はどんな小説?

『阪急電車』は、2008年に刊行された有川浩さんの小説です。

この物語は、兵庫県を走る「阪急電鉄・今津線」の宝塚駅から西宮北口駅まで、およそ15分の車内で偶然出会った、人々のふれあいが描かれます。

「阪急マルーン」と呼ばれるチョコレート色に近い茶色の電車。

この電車に乗り合わせた、見知らぬ人同士のエピソードが、少しづつ交わることで一つの物語として繋がっていく、そんな連続短編小説です。

『阪急電車』の物語

宝塚風景

物語は、阪急電鉄今津線の電車内や沿線を舞台に、複数の登場人物たちの視点で進行します。

婚約破棄から立ち直ろうとする女性や、恋愛に悩む女子大生、ママ友との付き合いに苦しむ主婦など、様々な背景を持つ人たちが物語の主人公。

日々の生活の中で、偶然乗り合わせた電車内で出会い、その出会いが彼女らの人生に少しずつ影響を与えていきます。

恋人に裏切られ、婚約破棄の痛手から立ち直ろうとしている女性は、年配の女性からの言葉に勇気をもらい、次の一歩を踏み出そうとします。

また、イケメンだけど感情の起伏が激しい彼氏との付き合いに悩む女子大生も、車内で聞こえてきた女子高生の恋バナに、自分の恋愛とのギャップを感じ、彼氏との別れを決心します。

さらにこの女子大生が、気の進まない付き合いをイヤイヤ続ける主婦に対して、こんな言葉をかけて励ますのです。

価値観の違う奴とは、辛いと思えるうちに離れといたほうがええねん。
無理に合わせて一緒におったら、自分もそっち側の価値観に慣れてしまうから。

阪急電車 文庫本 P168 より引用

ぶっきらぼうなのですが、印象に残る一言ですよね。

今津線の1駅ごとに描かれる別々のエピソードが交わりながら、勇気の連鎖で繋がっていく、そんな彼女らの心の変化や成長が丁寧に綴られています。

『阪急電車』レビュー

宝塚市風景

物語に描かれるエピソードは、どこにでもあるような日常を切り取ったもの。

このどこにでもある日常と、実在する沿線風景が丁寧に綴られることで、物語全体がリアルに感じられます。

自分も同じ電車に乗り合わせているような感覚です。

リアルな日常

有川作品の魅力の一つは、人や出来事のリアルな日常が描かれること。

『阪急電車』でも、登場人物たちの微妙な感情の動きや、日常のささやかな出来事が丁寧に描かれています。

登場人物に自分を重ね、自分自身のことのように共感したり、時に反省したりもしながら、物語に没入できます。

車内外で飛び交うほんわかとした関西弁や、関西のオバチャンの登場も、関西に住んでいればまさに日常。

そんな日常生活の中で誰もが感じる、感情や出来事が描かれており、そのリアリティが物語に深みを与えています。

実在の風景

『阪急電車』のもう一つの魅力は、駅や沿線の風景描写です。

今津線を宝塚駅から西宮北口駅に向かうと、すぐに宝塚大劇場の横を通り抜け、川を渡ると右手に六甲の山並み、しばらくすると左に阪神競馬場が見える。

こんな都会でもなく田舎でもない沿線の風景や、こじんまりとした各駅の特徴が、みごとに反映されています。

というのも、有川さんは沿線にお住まいだったこともあるそうで、沿線を良く知る住民ならではの忠実さなのです。

武庫川の中州に石で積み上げた「生」のオブジェ。

ツバメが巣作りにやってくる「小林駅」の素朴な風景。

物語に登場する場所を知らなくても、沿線の風景が目に浮かんでくると思いますよ。

温かい人間ドラマ

『阪急電車』の物語は、人の温かさや繋がりの大切さを感じることができます。

登場人物たちは、電車内という限られた空間で偶然出会い、その出会いが彼女らの人生に大きな影響を与えます。

見知らぬ人からのさりげない一言が大きな勇気を与えたり、小さな親切が人生を変える出来事になったり。

普段電車に乗っても、ぼ~っと窓の外を眺めていたり、スマホをいじっていたりして、周りに気を留めないことが多いかもしれません。

でも、物語に描かれるエピソードのように、なにげないふれあいが大きなキッカケになることもある。

ともすれば希薄になりがちな人間関係の大切さを、あらためて感じさせてくれます。

『阪急電車』まとめ

『阪急電車』は、忙しい日常の中でも、温かく、ほっこりした気持ちになれる物語です。

電車内という限られた空間で織りなすドラマは、私たちの日常にも通じるものがあります。

それも、新幹線などでの長距離移動ではなく、わずか15分のローカル線ならではの、ほんとに身近な日常。

ぜひ『阪急電車』を手に取り、日常のささやかな幸せや、人との繋がりの温かさを感じてみてください。

読後には、きっと阪急電車の沿線を実際に訪れたくなりますよ。

おまけ情報

『阪急電車』は映画化もされています。

また、原作にあって映画では描かれなかったエピソードが、スピンオフDVDとして発売されています。

興味があれば、原作と合わせて楽しんでみてください。

原作を読んでから映画を見ても、映画を見てから原作を読んでも、どちらでも大丈夫。

原作のイメージと映画のキャスティングが、これ以上ないと思えるほどピッタリです。

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