夏の京都の風景を語るうえで、欠かせないのが祇園祭。
賑わう四条通で食べ歩くのもいいし、山鉾の迫力にもワクワクします。これも十分楽しいのですが、“屏風祭”という別の楽しみ方があるのをご存じでしょうか。
屏風祭は、祇園祭の宵山の時期に合わせて開かれる町家文化の粋ともいえる催し。家の中に大切にしまってある屏風や美術品を、祇園祭に訪れた人が誰でも鑑賞できるように通りに面して飾ることで、町全体がアート空間に変わるのです。
今回紹介する『異邦人』では、観光客が山鉾に集まる裏で、幻想的で静かに行われるこの催しが、物語のカギを握る場として描かれます。
『異邦人』
ご当地度 :★★★★☆
生活実感 :★★★★☆
ほっこり度:★★☆☆☆
一気読み度:★★☆☆☆
余韻の深さ:★★★★☆
美術界という、少し特殊な世界が舞台だけれど、その世界では日常なのかなと思います。主人公の力強さ、凛とした姿が際立つ、じんわりと沁みる物語です。
物語は、出産をまじかに控え、東京から京都にやってきた女性が主人公。彼女は絵の目利きとしての感性を持っていて、画廊で目にした無名の女性画家の作品に魅了されます。
「この画家を世に出したい」の一心で、人との微妙な距離感や言葉の裏に意味がある京都ならではの人間関係に戸惑いながらも、彼女は自分の直感を信じて、京都の画壇に挑んでいきます。
無名の画家を世に送り出すために、彼女が選んだ勝負の場が“屏風祭”。町内でもひときわ目立つ大きな町家に展示された睡蓮の屏風。
無名の画家が描いたその絵を通じて彼女が見せようとしたのは、技術や権威ではなく、作品そのものが持つ「心を動かす力」です。
外の喧騒を離れ、静けさの中にふわりと浮かび上がる睡蓮の絵。この美しい描写が印象に残ります。
京都は古くからの文化が根付き、風情のある街並みや名所も数多く残された観光地としても人気の街。でもその反面、よそから来た人が入り難いような閉鎖的な土地柄というイメージがあるかもしれません。
この物語では、美しい京都の姿だけではなく、ちょっとネガティブで独特な京都の慣習や空気感もちゃんと表現しながら、その中で逞しく前に進む女性の姿が丁寧に描かれています。
そこには京都人にはわからない、「異邦人には異邦人なりの京都」があるように感じます。
主人公は、他者との関係にどまどいながらも誠実に向き合い、やがて京都という土地と、そこに生きる人々との間に少しずつ理解を築いていく。
その道のりは単なる成功物語ではなく、「自分は何を信じて進むのか」という問いを通して、読む人に静かに響いてくるのです。
絵画に詳しくなくても、京都に住んでいなくても、この小説の世界には誰もが一度は感じたことのある「ひとつの信念にかけてみる勇気」が詰まっています。それがこの物語の、最大の魅力かなと思います。
東京から京都へ移り住んだ女性が、無名画家の才能に惹かれ、伝統と格式の中で信じた作品を世に出そうと奮闘する、原田マハさんの『異邦人(いりびと)』。
第6回京都本大賞を受賞したこの作品、屏風祭の静かな舞台に浮かぶ睡蓮の絵が深く心に残ります。美術に詳しくなくても、信念を貫く姿にきっと胸が熱くなるはずです。
祇園祭の熱気とは別の京都の魅力を、物語の中でじっくり味わってみませんか。
この小説、京都を舞台にした小説をまとめた、「京都が舞台のおすすめ小説10選」でも取り上げています。よろしかったらご覧ください。










