この記事では、原田マハさんの作品『異邦人』を紹介します。
美に対する執着とそこに絡む人間関係が描かれた、京都を舞台とする物語です。
物語の背景には、京都の伝統文化や風情も丁寧に盛り込まれ、四季折々の京都が感じられます。
『異邦人』はどんな小説?
『異邦人』は、キュレーターでもある原田マハさんお得意の美術もの。
京都独特の慣習に揉まれながらも自分の信じた道を進む、一枚の絵に魅せられた女性の姿を描きます。
第6回京都本大賞受賞作で、2021年に連続ドラマ化された作品です。
『異邦人』のあらすじ
東京にある画廊の御曹司・篁一輝と結婚した菜穂。
個人美術館の副館長でもある菜穂は、出産を控えて滞在することになった京都で、一枚の絵と運命的に出会います。
一枚の「青葉の絵」、そしてそれを描いた無名の画家・白根樹との出会いが、菜穂の人生を大きく変えることに。
世界中の誰もが知っている芸術家によるものではなく、世界中の誰も知らない芸術家を、自分で育て上げ、思うままに作品を創らせることができたら。
異邦人 Kindle版 P156より引用
白根樹。彼女こそが、その人であるような予感がする。私だけの画家であるような予感が。
独特の文化をもつ京都画壇の中で、持てるすべてをかけて、自分の手で樹の絵を世に出す。
菜穂は自分が進む道を見出し、京都で生きていくことを決意するのです。
『異邦人』レビュー
「京の人は、猶、いとこそ、みやびかに、今めかしけれ。」
(京の人は何といっても風流なものですね)
小説の冒頭に記された、『源氏物語』「宿木」の台詞です。
京都は古くからの文化が根付き、風情のある街並みや名所も数多く残された観光地としても人気の街。
でもその反面、余所者が入り難いちょっと閉鎖的な土地柄、こんなイメージがあるようにも思います。
旅行で訪れるだけなら、そんなイメージは強く湧かないと思うのですが、他の土地から京都に移り住むとなれば、ヒシヒシと感じることがあるのかも。
目には見えないけれど確かに存在する壁のようなものを。
この小説のタイトル『異邦人』は「いりびと」と読みます。
「いりびと」って「入り婿」のことなのですが、この小説での「いりびと」は、「京都以外で生まれて、京都にやってきた人」のこと。
このタイトルから、主人公が京都独特の習わしに翻弄される、どこか陰湿な物語をイメージして読み始めました。
でもそれは間違いでした。
菜穂は翻弄されるどころか、「京都の人々は東京以上にしがらみや縁故を重要視する」と感じ、逆に京都の慣習をも利用し味方につけるのです。
東京で生まれ育った自分とは違うものを受け入れ、自分の感性を信じて力強く歩む。
京都のあれもこれも東京とは違うけれど、それも風流だと感じられる。
読み進めるにつれていろんなピースが集まり、冒頭の台詞が出来上がっていくかのようです。
そのピースの大きなひとつである一枚の絵、菜穂が樹の絵と最初に出会う場面も印象的。
自分の中で、何かが、ことりと動く感じがあった。
異邦人 Kindle 版 P42より引用
いや、違う。動いたのではない。刺さったのだ。
菜穂の胸中に、得体の知れない感情が、つむじ風のように巻き起こった。
美しいものに出会った感動、というか衝撃を受けた菜穂の瞬間的な感情が伝わりませんか?
この感情を、「狙った獲物を捕らえた、猛禽類の快感」という一輝の表現が、より一層具体的にしています。
これほどまでに衝撃的な出会い。
この出会いが、菜穂と樹にとって正に運命の出会いであったことが、物語のエンディングに繋がります。
この物語では、葵祭や祇園祭、五山の送り火など、物語の背景となる京都の良き風情も、閉鎖的で他を寄せ付けないような独特の雰囲気も、いろいろな京都の顔が菜穂の視線で描かれます。
美術と人間関係、そして京都の街が密接に絡み合う物語。
そこには京都人にはわからない、「異邦人には異邦人なりの京都」があるように感じます。
『異邦人』は、カテゴリー「おすすめ」でも紹介しています。
本作を含めて、京都を感じられる小説を7作品紹介していますので、ぜひ合わせてお読みください。
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