甲子園の神整備と人の成長がリンク『あめつちのうた』

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甲子園球場

この記事は、朝倉宏景さんの作品『あめつちのうた』を紹介します。

プロ野球・阪神タイガースの本拠地であり、高校野球の聖地「阪神甲子園球場」

この作品は、甲子園のグランドキーパーとして奮闘する青年の成長を描いた、感動の物語です。

目次

『あめつちのうた』はどんな小説?

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「阪神園芸」

阪神タイガースファンにはおなじみの、甲子園球場のグランド整備を請け負うプロ集団です。

この物語は、阪神園芸の新米グランドキーパーが、仕事や仲間との出会いを通じて、悪戦苦闘しながらも成長する1年間を描きます。

土砂降りの雨でも、みごとにグランドを蘇らせる、「甲子園の神整備」と呼ばれるグランドキーパーの技を垣間見ることもできるこの小説は、2022年第1回「ひょうご本大賞」受賞作品です。

『あめつちのうた』あらすじ

運動神経ゼロの主人公・雨宮大地。

「野球は大好きだけど、大嫌い。大嫌いだけど、大好き」という複雑に絡んだ自分の気持ちを抱えながらも、「阪神園芸」に入社します。

高校時代には野球強豪校のマネージャーとして全国大会に出場するも、甲子園の土を踏むことは許されなかった大地は、グランドキーパーとして憧れの場所に立つことに。

社会人としてもグランドキーパーとしても未熟で失敗続き。

落ち込みながらも、グランド整備の厳しさと奥深さを学び、徐々にプロのグランドキーパーとして、そして人間としても成長していきます。

『あめつちのうた』レビュー

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「雨降って地固まる」

これが物語全体に流れるテーマです。

グランド整備の仕事と登場人物たちの人間としての成長を、この言葉が共通メッセージとなって結びつけます。


グランドキーパーの仕事は、グランドの表面を均すだけの単純作業ではありません。

天候や土の状態を見極めて、グランドを最良のコンディションに保つことは、並大抵の努力ではないんですよね。

地味に見えますが、とても重要な役割なんです。

野球の試合を無事に進めるために、芝を刈り、土を掘り返し、時には雨を待って土に水を浸み込ませる。

こんな繊細な作業によって、乾きにくく、クッションみたいに柔軟で、かつ強固なグランドに仕上がるのですが、この作業が、まさに「雨降って地固まる」そのもの。

「神整備」と呼ばれる阪神園芸さんの奮闘が目に見えるような、グランド整備の細かな描写がこの小説の魅力でもあります。

裏方であるグランドキーパーの活躍に対し、阪神タイガーズの選手が引退挨拶でよく言います。

「阪神園芸の皆様ありがとうございます」

この物語を読んでいると、本当にそんな気持ちになれます。


登場人物たちが成長する姿もまた、このテーマにみごとにリンクしています。

それぞれに、過去のイヤな感情や挫折を抱えながらも、自分たちの弱さに気づき、乗り越えようと前を向く姿。

時にはぶつかり、突き放すことがあっても、雨によって地が固まるように、お互いが理解し合い、関係が深まり、強固な繋がりとなっていきます。

いろいろな災難や困難があるけどね、それを切り抜ければ、もっともっと人間として強くなれる。

空を見上げると、きれいな虹がかかってる。

「あめつちのうた」 kindle版 P190より引用

「雨降って地固まる」、人間もグランド整備も同じなんです。

人間にもグランドにも「雨」が必要。

表面だけを見て、乾いているからと水を撒くだけじゃなく、その深層に水が行き渡っているかどうかに心を配る。

表面以外のものを見るって難しいですが、大切なことですよね。

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