歴史ある港町・神戸、下町の息づかいが残る街、海や山に抱かれた街並み――兵庫県の表情は多彩です。そんな街を舞台に描かれた小説には、都会の華やかさも、日常の温かさも、人の心の奥深くに迫る物語もあります。
この記事では「兵庫が舞台のおすすめ小説」として、街の空気を味わいながら楽しめる物語をピックアップしました。
兵庫が舞台の日常物語

それでは、兵庫県の街を舞台にした私のおすすめ小説を紹介します。心が温かくなったり、人の優しさや街の空気を味わえるような10作品をピックアップしました。日常に寄り添う物語が詰まった作品。読後にはきっと、あなたも本を片手に兵庫の街を訪れたくなるはずです。
この10作品以外にも、多くの作品で描かれる兵庫の街。これからも新作やお気に入りが増えたら随時更新していくので、ぜひチェックしてみてください。
有川浩『阪急電車』
宝塚から西宮北口までを結ぶ阪急今津線。『阪急電車』は、片道わずか15分の短いローカル路線が舞台です。
各駅での小さな出来事を通して、電車に乗り合わせた人々の物語が連なっていく連作短編スタイル。偶然隣に座った人の何気ない一言に励まされたり、気になる人と再び出会ったりと、乗客同士の一瞬の関わりが思いがけない形でつながっていきます。
登場人物の心情はどこか身近で、読んでいる自分もその車内にいるような感覚を味わえるのが魅力。普段は見過ごしてしまう日常の瞬間に、実は小さなドラマや心温まる奇跡が隠れている——そんな気づきをくれる一冊です。読み終えたあとには、いつもの通勤や買い物の電車時間が、ちょっと特別に感じられるはず。
人との縁や温かさに触れたいときにぴったりの、ほっこりと心が和む物語です。

川上徹也『あの日、小林書店で』
『あの日、小林書店で』は、尼崎市・立花に実在した町の本屋さんを舞台に、書店と人とのつながりを描いた物語。
主人公は、将来にぼんやり不安を抱えながら出版取次会社に勤め始めた新人営業・大森理香。ある日訪れた「小林書店」の店主・小林由美子さんとの出会いをきっかけに、彼女の仕事や日常の向き合い方が少しずつ変わっていきます。
由美子さんは、本やお客さんに誠実に向き合い続け、本を売る以上の意味をその店に与えてきた人。その姿から、「仕事って何か」「守り続けるってどういうことか」が自然と伝わってきます。書店の閉店という現実を受け止めながらも、そこに流れていた“時間の尊さ”が心に響く一冊です。
小説なんですが、由美子さんの語る出来事はノンフィクション。仕事に行き詰まっている人や、日常を少し立ち止まって見つめ直したい人にぴったりです。読後にはきっと、自分の働き方や大切にしたいものが見えてきます。
松宮宏『アンフォゲッタブル』
神戸・元町高架下にあるジャズバーを舞台に、音楽が人と人をつなぐ温かな物語が描かれる『アンフォゲッタブル』。
日本のジャズ発祥の地ともいわれる神戸には、ジャズ好きが自然と集まります。元ヤクザや定年退職したサラリーマン、プロのミュージシャンまで、普段なら交わることのない人々が、同じ音に心を寄せ合い少しずつ距離を縮めていく。時に励まし合いながら人生を重ねていく姿が印象的です。
ジャズの名曲や実在するミュージシャンのエピソードも盛り込まれていて、音楽に詳しくなくても雰囲気に引き込まれる一冊です。読んでいるうちに、神戸の街角から流れてくる音に耳を澄ませたくなるはず。
音楽が好きな人はもちろん、人とのつながりや温かさに触れたい人におすすめの一冊です。

成海隼人『尼崎ストロベリー』
『尼崎ストロベリー』は、「笑い」で大切な人を守りたいと思った少年の物語。
主人公の駿一は、お笑い好きな”オカン”との何気ない日々を大事に育んできた高校生。しかし、オカンが胃がんで余命宣告を受けたことから、その暮らしが大きく揺らぎます。駿一は「笑うことで免疫を高める」という話を信じて、幼なじみと漫才コンビを組み、漫才コンテストの頂点を目指して奮闘します。
「どこまでもオカンを思う気持ち」と、「笑い」という武器を手に進む駿一。つらい現実を前にしながらも、オカンの前では明るさを絶やさない姿が胸を打ちます。ネタ合わせをしたり、一緒にお笑い番組を観たり、オカンを笑わせようとする工夫の一つひとつが、切ないけれど温かいんです。
阪神尼崎の駅前広場、尼崎中央商店街、ピッコロシアターなど、物語の舞台である尼崎を良く知る人ならお馴染みの場所が登場します。お笑いが好きな人、そして“笑いの力”を信じたい人におすすめです。
小川洋子『ミーナの行進』
『ミーナの行進』は、1970年代の芦屋を舞台にした、どこか懐かしい時間を切り取った物語です。
父を亡くし、母の事情で叔母の家に預けられた少女・朋子が、一年間を過ごした記憶をたどります。そこで出会うのが、いとこのミーナ。喘息を抱えながらも読書を楽しみ、なんとコビトカバの“ポチ子”に乗って登校するという、ちょっと不思議で魅力的な存在です。
この物語は、家族や友人とのやりとり、日常のささやかな出来事を通じて描かれる「人とのつながり」や「別れ」が、静かに心に沁みてきます。読んでいると、自分の子ども時代や家族の記憶、過ぎ去った日々を思い出し、しみじみとした感じが残るはず。
温かく優しい空気に包まれる一冊。懐かしい気持ちに浸りたい人、静かな物語の中で心を休めたい人におすすめの物語です。
原田マハ『翔ぶ少女』
『翔ぶ少女』は、阪神淡路大震災で大きな被害を受けた神戸市・長田区を舞台に描かれる物語です。
震災で両親を亡くした三兄妹が、悲しみを抱えながらも懸命に生きようとする姿が胸を打ちます。物語の始まりは震災当日。絶望の中で彼らを支えたのは、心療内科医の“ゼロ先生”。やがて兄妹と先生は、本当の家族のように助け合いながら暮らし、近所の人々との温かなつながりの中で少しずつ未来へ歩み出します。
ラストには意外なファンタジー要素も織り込まれ、悲しみだけでなく希望と再生の物語として読後に優しい余韻を残してくれます。
人との絆や家族の温かさを描いた、希望にあふれた物語。子供ながらに懸命に生きる三兄弟の姿に、前を向く力をもらえるはずです。

増山実『波の上のキネマ』
尼崎の小さな映画館を舞台にした『波の上のキネマ』は、映画を愛する人の心に深く響く物語です。
祖父が始めた「波の上キネマ」は閉館の危機に直面し、館主の俊介は苦しい決断を迫られます。そんな中、祖父の過去を探る旅に出た俊介が知るのは、80年前の西表島で強制労働の中、密林にまで映画館を築いたという驚きの物語。
映画がただの娯楽ではなく、人の希望や生きる力を与える存在であることが浮かび上がります。
阪急塚口駅前に実在する「塚口サンサン劇場」をモデルにした映画館も登場し、地元の空気感も味わえる。映画文化を守りたい気持ちや、世代を超えて受け継がれる熱い気持ちに胸を打たれる一冊です。
映画が好きな人はもちろん、「何かを守りたい」という思いを抱えている人にもおすすめ。
竹村優希『神戸栄町アンティーク堂の修理屋さん』
『神戸栄町アンティーク堂の修理屋さん』は、神戸・栄町を舞台にした心温まる物語です。
主人公は、祖父からアンティークショップを継いだ青年・寛人。正直なところ古いものには興味がなく、「壊れたら買い替えればいい」と思っていたタイプです。けれど、修理屋の女性・茉莉や店に訪れる人々と関わるうちに、モノに宿る記憶や人の想いに触れ、少しずつ考え方が変わっていきます。
単なる“修理”ではなく、持ち主の心や過去までも癒していく。古いバイオリンや壊れたビデオデッキ、車椅子など、それぞれに宿る物語がていねいに描かれていて、「モノの価値ってなんだろう?」と自然に考えさせてくれます。
日常にちょっとした温もりを感じたい人におすすめです。身近なモノを大切にしたくなるはず。
原田マハ『スイートホーム』
『スイート・ホーム』は、宝塚の街を舞台に、家族や周囲の人々の日常を描いた連作短編集。
物語の中心にあるのは、ホテルのパティシエだった父親が自宅を改装して始めた洋菓子店「スイート・ホーム」です。父の焼くケーキの甘い香りや、店を支える母の明るさ、ちょっと引っ込み思案な長女や浪人中の少女の心の揺れ…。それぞれの小さな物語がスイーツや四季の風景と重なり合い、読むたびに温かな時間を感じます。
この物語が教えてくれるのは、「幸せって、実はすぐそばにあるもの」ということ。家族の小さなやりとりや、ちょっとした約束や習慣が、何気なくても大きな支えになっているんだと思えます。大げさなドラマはないけれど、日常のやさしさがじんわり心に広がります。
家族との時間を大切にしたい人や、忙しい日々の中でほっと一息つきたい人におすすめ。読み終わったあとには、誰かのためにお菓子を作りたくなるかもしれません。
朝倉宏景『あめつちのうた』
『あめつちのうた』の舞台は、西宮市の阪神甲子園球場。主人公は、あの「甲子園の神整備」とも呼ばれる阪神園芸のグラウンドキーパーです。
新人スタッフが失敗を重ねながらも、先輩たちに支えられ、少しずつ一人前へ成長していく姿が描かれます。グラウンド整備は、ただ土をならすだけじゃありません。選手の安全を守り、ボールの跳ね方ひとつまで計算する、緻密で奥深い仕事。
雨が降ればグラウンドはぬかるむけれど、水がなければ土は強くならない――そんなグラウンドの姿から、「人も失敗を乗り越えてこそ強くなれる」という思いが伝わってくる、厳しさの中に温かな人間模様が光る物語です。
野球ファンはもちろん、何かに打ち込む人の姿に共感したい方にもおすすめ。人の強さと優しさに勇気をもらえます。

兵庫県のいろいろな顔を感じる

兵庫を舞台にした10冊の小説は、どれもその土地ならではの雰囲気や人の暮らしを描き、読む者の心を温かく包んでくれます。まだ知らない街を、旅行気分で楽しむのもいい、自分の記憶や暮らしに重ね合わせて読むのもいい。ぜひ気になる一冊を手にとってみてください。
関西が舞台の小説を紹介するこのブログ。「京都が舞台の小説」「大阪が舞台の小説」も10作ピックアップしています。こちらも街の空気感や人の温かさを感じる物語が揃っています。


Rev1.0 2025.9.27:新規公開

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