竹村優希『神戸栄町アンティーク堂の修理屋さん』~ 心も直す優しい物語

当ページのリンクには広告が含まれています。
アンティークショップ

新しいものに買い替えるのが当たり前の時代に、あえて壊れたモノを修理する人がいます。神戸・栄町を舞台にしたこの小説は、ただ「モノを直す」だけの話ではありません。古い品物を修理することで、持ち主の心まで少しずつ修復されていく、不思議であたたかな物語です。

目次

神戸・栄町でモノと心を修理する

バイオリン

港町・神戸の一角に、古びた看板を掲げた小さな店があります。そこは、壊れたものをひとつずつ丁寧に修理する「アンティーク堂」。

東京でデザイナーとして働いていた青年・高橋寛人が、この店を営んでいた亡き祖父・万の跡を継ぐため、神戸へ戻ってくるところから物語は始まります。

慣れない商売に戸惑う寛人の前に現れたのは、修理職人の後野茉莉。彼女は、持ち込まれた品物の“壊れた箇所”だけでなく、その奥にある「持ち主の想い」にまで、静かに耳を傾ける人でした。

動かなくなった時計、再生できないビデオデッキ、音を失ったヴァイオリン……。それぞれの“修理”を通して、モノに宿る時間と、人の想いが少しずつ結び直されていきます。

物語の舞台・神戸栄町は、古いビルと新しいカフェが並ぶ、レトロとモダンが同居する街。そんな風景の中で、この物語は“心の修理”をやさしく描き出していきます。

人の心を癒やして受け継ぐ温かい物語

ブリキのバス

この物語で印象に残ったのは、モノを修理することの裏側にある、人の感情の繊細さです。

茉莉は、どんな依頼にも軽々しく「直ります」とは言いません。時には、「直さない方がいい」と判断することもある。それは、ただ壊れた部分を直すだけでは、思い出まで壊してしまうことがあるからです。

「修理」とは、部品を交換するだけではなく、“気持ちをほどく”こと。そして、モノの修理以上に、自分自身を見つめ直すキッカケにもなる。茉莉の丁寧な作業と静かな言葉には、そんな思いが込められています。

たとえば、古いビデオデッキから懐かしい映像が流れた瞬間。軋む車椅子の音が静かに消える瞬間。それはただの修理の成功ではなく、依頼した人が「もう一度、誰かとつながる」瞬間でもあるんです。

この物語が始まる時にはすでに亡くなっている祖父・万の思いも同じ。物語には直接登場しないけれど、その存在は登場人物たちの中に確かに息づいている。古いものへの想いとか、人との繋がりの大切さとか、万の教えが自然と受け継がれています。

寛人のように万から店を継ぐことも、何かのモノを受け継ぐことも、「継ぐ」というのは、形あるものを受け取ることだけではなく、心もいっしょに受け取ること。その温かな想いが、物語の中に流れています。

この物語の中に描かれる“修理”とは、単なる技術じゃなく、「もう一度、過去と向き合う勇気」なんじゃないかなと思います。読んでいると、忘れていた記憶や、置き去りにしてきた想いが、少しずつ浮かび上がってくるような気がします。

修理とは人の想いを優しく結び直すこと

ジャスミンの花

『神戸栄町アンティーク堂の修理屋さん』は、モノを通して人を描く物語です。修理することを通じて、過去と現在、人と人の想いが静かに結び直されていく。

この物語で描かれているのは、“壊れたものを直す”ことが、実は“心をほどく”ことでもあるということ。仕事や人間関係、家族との時間……。どんなに頑張っても上手くいかないこともあるけれど、「壊れたままでもいい」「でも、少しだけ触れてみよう」と思えるやさしさが、この物語にはあります。

無理に直そうとしなくてもいい。時間をかけて、少しずつ整えていけばいい。そう思えると、不思議と心が静まるんです。そして、茉莉の何気ない一言が、どこか頑張りすぎている自分への慰めのように響きます。

きっと、あなたにも「修理したい何か」が思い浮かぶんじゃないでしょうか。この物語は、そんな“壊れたもの”と向き合う勇気を与えてくれます。読み終えたとき、心のどこかが少し軽くなる。そんな温かな読後感を、ぜひ味わってみてください。

この物語には続編があります。修理するものは変わりますが、「モノを修理することで心も癒す」という物語のテーマは変わりません。最後には、モノを修理する茉莉自身が、自分の心に向き合っていきます。

Sponsored Link

Kindle Unlimitedで、もっと読書を楽しみませんか?

「Kindle Unlimited」は、幅広いジャンルの200万冊以上が読み放題になる、Amazonの読書サービス。

初めてなら30日間無料で利用でき、それ以降も月額980円で、好きなだけ読書が楽しめます。

あなたも「Kindle Unlimited」で、新しい本と出会いませんか。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次