奈良・京都・大阪をつなぐ奇妙な痛快ファンタジー

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奈良・東大寺

「ある日、鹿に話しかけられたら……あなたならどうしますか?」

今回取り上げる小説は、こんなあり得ない衝撃的な場面から始まります。舞台は奈良。東大寺や春日大社のそばにある女子校に赴任した臨時教師が、突然鹿から奇妙な使命を託されることに。

歴史や神話といった要素がちらりと顔を出しながらも、描かれるのはどこにでもいるような不器用な大人たちのやり取りと、じわじわと迫ってくる“よくわからない何か”との向き合い方。笑えて、ちょっと真剣で、でもどこか親しみやすい。そんな物語です。

目次

奈良の風景が物語の舞台に

奈良といえば、歴史ある寺社や悠々と歩く鹿たちを思い浮かべる人も多いはず。でもこの物語では、そうした観光地の顔とは違う、日々の暮らしの中にある奈良がしっかりと描かれています。早朝の奈良公園を歩くシーンや、通勤途中に目にする鹿の姿など、どれも肩の力が抜けた描写ばかりなのに、どのシーンにも、奈良という土地の空気がじんわりとにじんでいます。

そして、印象的なのが鹿との最初の“出会い”。鹿がじゃべりかけてくるなんてあまりに唐突。でも、奈良の空気感の中だと妙にしっくりくる。奈良公園で人を警戒することもなく堂々と歩く鹿の姿を見たことがあれば、「奈良の鹿なら、ありえるかも」と、妙に納得しそうになってしまいます。この物語は、現実とファンタジーの境界がふわりと溶けて、いい感じに混ざり合ったような感覚が、奈良の雰囲気にマッチしていて、自然と物語に引き込まれていきます。

軽妙な会話とじわじわくる成長物語

奈良の鹿

物語のテンポを支えているのが、登場人物(?)たちの軽妙なやりとり。少しズレているけど妙にリアルな言い回し、どこか憎めないやり取り、そして何より、鹿の言いようがじわじわと笑いを誘います。上から目線で妙に偉そうなのに、なぜかポッキーに目がない。そう、あのグリコのポッキーです。古代の使命を語る一方で、人間社会の愚痴を言う。言っていることは滅茶苦茶なのに、口調があまりに堂々としていて、思わず笑ってしまいます。

一方、主人公はかなり地味で、要領も悪く、自信もない男。赴任先の女子校ではなかなか馴染めず、女子高生の態度にも悩まされる日々です。でもそんな彼が、「自分にできること」を探しながら、少しずつ変わっていく。鹿に振り回されながらも、次第にその使命に向き合い、行動を起こすようになる姿は、不器用ながらも芯のある大人のかっこよさを感じさせます。

さらに、物語の舞台は奈良から京都、そして大阪にもつながっていきます。土地ごとに空気も登場人物の顔つきも少しずつ変わっていく。京都では思わぬ場面で人間関係が大きく動き、大阪ではまた違った視点で物語の背景が浮かび上がる。三都市が物語のなかで緩やかにつながっていくのです。

現実の関西を知っている人にとっては、街の風景やちょっとした言葉の違いにも親しみを感じるかもしれません。そうした“日常の匂い”があるからこそ、物語の不思議な展開にも無理なくついていける。それがこの小説の面白さの一つです。

何気ないやり取りの中にくすっと笑える一言があり、読み終えたときには静かに余韻が残る。そんな心地よい読書体験を味わいたい方に、ぴったりの一冊です。

今回の小説は・・・

今回取り上げたのは、万城目学さんの『鹿男あをによし』です。奈良の女子校に赴任した臨時教師が、突然しゃべる鹿に「日本の命運を救え」と言われ、奇妙な冒険へと巻き込まれていくファンタジー。笑えて驚いて、最後は少し切ない。不器用な主人公の成長も胸に残る一冊です。

関西の風景にちょっと不思議が混ざる感覚、ぜひ味わってみてください。

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