物が古くなったり壊れたりすれば、新しいものに買い替えるのが当たり前の時代。でも、あえて壊れたモノを修理して大切にする人がいます。
神戸を舞台にした『神戸栄町アンティーク堂の修理屋さん』は、ただ「モノを直す」だけの物語ではありません。
古い品物を修理することで、持ち主の心まで少しずつ修復されていく、不思議であたたかな物語です。
『神戸栄町アンティーク堂の修理屋さん』
ご当地度 :★★☆☆☆
非日常度 :★☆☆☆☆
ほっこり度:★★★★☆
一気読み度:★★★☆☆
余韻の深さ:★★★☆☆
壊れた物に対する思い出といっしょに、持ち主の心を大切にする気持ちに溢れた物語。神戸の街が、エピソードの背景としてそっと添えられています。
港町・神戸の一角に、古びた看板を掲げた小さな店があります。そこは、壊れたものをひとつずつ丁寧に修理する「アンティーク堂」。
東京でデザイナーとして働いていた青年・高橋寛人が、この店を営んでいた亡き祖父の跡を継ぐため、神戸へ戻ってくるところから物語は始まります。
慣れない商売に戸惑う寛人の前に現れたのは、修理職人の後野茉莉。彼女は、持ち込まれた品物の“壊れた箇所”だけでなく、その奥にある「持ち主の想い」にまで、静かに耳を傾ける人でした。
動かなくなった時計、再生できないビデオデッキ、音を失ったヴァイオリン——それぞれの“修理”を通して、モノに宿る時間と人の想いが、少しずつ結び直されていく。
物語の舞台・神戸栄町は、古いビルと新しいカフェが並ぶ、レトロとモダンが同居する街。そんな風景の中で、この物語は“心の修理”をやさしく描き出します。
この物語で印象に残るのは、モノを修理することの裏側にある、人の感情の繊細さ。
茉莉は、どんな依頼にも軽々しく「直ります」とは言いません。時には、「直さない方がいい」と判断することもある。それは、ただ壊れた部分を直すだけでは、思い出まで壊してしまうことがあるからです。
「修理」とは、部品を交換するだけではなく、“気持ちをほどく”こと。そして、モノの修理以上に、自分自身を見つめ直すキッカケにもなる。
茉莉の丁寧な作業と静かな言葉には、そんな思いが込められています。
たとえば、古いビデオデッキから懐かしい映像が流れた瞬間。軋む車椅子の音が静かに消える瞬間。
それはただの修理の成功ではなく、依頼した人が「もう一度、誰かとつながる」瞬間でもあるのです。
この物語が始まる時にはすでに亡くなっている祖父の思いも同じ。
物語には直接登場しないけれど、古いものへの想いとか、人との繋がりの大切さとか、祖父の教えは登場人物たちの中に確かに受け継がれています。
寛人のように祖父から店を継ぐことも、何かのモノを受け継ぐことも、「継ぐ」というのは、形あるものを受け取ることだけではなく、心もいっしょに受け取ること。
その温かな想いが、物語の中に流れています。
この物語の中で描かれる“修理”とは、単なる技術じゃなく、「もう一度、過去と向き合う勇気」なんじゃないかと思います。
読んでいると、忘れていた記憶や想いが、少しずつ浮かび上がってくるようです。
『神戸栄町アンティーク堂の修理屋さん』は、モノを通して人を描く物語です。修理することを通じて、過去と現在、人と人の想いが静かに結び直されていく。
仕事や人間関係、家族との時間——上手くいかないこともあるけれど、「壊れたままでもいい」「でも、少しだけ触れてみよう」と思えるやさしさが、この物語にはあります。
きっと、あなたにも「修理したい何か」が思い浮かぶんじゃないでしょうか。この物語は、そんな“壊れたもの”と向き合う勇気を与えてくれます。
読み終えたとき、心が少し軽くなる。そんな温かな読後感を、ぜひ味わってください。
この物語には続編があります。修理するものは変わりますが、「モノを修理することで心も癒す」という物語のテーマは変わりません。最後には、モノを修理する茉莉自身が、自分の心に向き合っていきます。
この小説、兵庫を舞台にした小説をまとめた、「兵庫が舞台のおすすめ小説10選」でも取り上げています。よろしかったらご覧ください。










