今回おすすめしたい小説は、七月隆文さんの『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』です。
この作品、映画化もされていますし、ちょっと意味深なタイトルが以前から気になっていました。
舞台は、京都。通学途中に出会った大学生と彼女。どうしようもなく切ない事実を知りながらも、二人の限られた時間を大切に想う、ピュアな恋愛物語です。
『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』
ご当地度 :★★★★☆
生活実感 :★★★☆☆
ほっこり度:★★☆☆☆
一気読み度:★★★★☆
余韻の深さ:★★★★☆
序盤は、ごく普通の大学生の恋愛物語。でも、途中で以外な秘密が明かされる。普通だけれど普通じゃない物語は、切ないけれど温かい。
初めての瞬間に、なぜ彼女は涙を流すのか
物語は、京都の美大に通う20歳の大学生・高寿が、通学電車の中で見かけた女性・愛美に一目惚れをするところから始まります。
ナンパなんてしたこともない高寿が思い切って声をかけたことをきっかけに、二人は少しずつ距離を縮め、付き合うことに。
照れくさくも微笑ましい二人のやり取りや、初めて手をつないだときの緊張感など、誰しも経験があるような甘酸っぱい恋の始まりが丁寧に描かれていきます。
でも、二人が順調に幸せな時間を重ねていく中で、高寿は彼女の行動や言葉にどこか小さな違和感を覚えるのです。
初めてお互いを名前で呼び合ったとき、初めて手をつないだとき。高寿にとっては「二人の関係が深まる、最高に嬉しい瞬間」であるはずなのに、なぜか彼女は感極まったように涙を流す。
「どうしてこんな幸せな時に泣くんだろう?」
その時は理由が分からず、はぐらかすように「うれし涙」と言う彼女を、ただ愛おしいと想う高寿と同じように、読んでいる私たちも、彼女の涙の奥にある「何か」を感じます。
当たり前のように過ぎていく、日常の愛おしさ
この物語、最初のうちは、どこにでもある大学生の恋愛ストーリーなのですが、本当の魅力は、中盤で彼女から明かされる「ある事実」です。
「ある事実」の具体的な内容は、実際に読んで確かめてもらいたいのですが、二人のあいだに隠された秘密を知った瞬間、それまで読んできたエピソードの一つひとつが、180度違って見えてきます。
彼女が流していた涙の意味、彼女の言葉、何気ない仕草。そのすべてが繋がったとき、なんとも言えない切なさが伝わってくるのです。
二人がデートを重ねる宝ヶ池公園や三条大橋、鴨川の河川敷といった京都の風景は、観光地の華やかさというよりも、静かな日常として描かれています。
そんな何気ない京都の景色の中で、二人の時間を慈しむように大切に過ごす姿を見ていると、私たちが普段、当たり前と思っている「誰かと過ごす一日」は、本当は奇跡的で贅沢なものなんだなと、あらためて思います。
別に特別な出来事なんかなくても、好きな人と一緒にご飯を食べたり、たわいもない話をしたり、ただ並んで歩いたりするだけで、温かくて幸せを感じる。
そんなシンプルだけれど大切なことを、この物語は描いている気がするのです。
『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』は、自分たちにはどうすることもできない切ない宿命を描いていますが、読み終えたあとには悲しさよりも、優しく温かい余韻が残りました。
中盤で明かされる「ある事実」を知ったあとに、もう一度最初のページから読み返してみると、彼女の表情やセリフが、初めの印象とはまったく違う、切なさを持って響いてくるはず。
あなたの心には、二人が重ねた数々の時間が、どんな風に残るでしょうか。
『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』は、「京都が舞台のおすすめ小説10選」でもピックアップしています。京都の空気感が感じられる物語を選んでいますので、合わせて読んでみてください。











