「自分で光を放つことをせず、一筋の光を待ち望む青みがかった透明なビー玉」
京都に移り住んだひとりの女性の姿を描く、藤岡陽子さんの『メイド・イン京都』は、主人公が美大生だった時に創った作品の、こんな描写から始まります。
光を待つだけのふがいない自分を、ビー玉に例えた学生時代の彼女。その彼女が京都での生活で得たものは何だったのか。揺れ動く彼女の気持ちを感じてください。
『メイド・イン京都』
ご当地度 :★★★☆☆
生活実感 :★★★★☆
ほっこり度:★★★☆☆
一気読み度:★★☆☆☆
余韻の深さ:★★★★☆
主人公に新たな光が届くキッカケの場所として、滋賀県・安曇川周辺も登場。京都と並び、この場所での出会いが、主人公に大きな影響を与えます。
結婚を控え、京都に移り住むことになった十川美咲。
家業を継ぐために、故郷・京都に帰るという銀行員の彼氏、古池和範から突然のプロポーズを受け、彼と一緒に京都へ行くことを決めたのです。
彼の実家は、京都でレストランや土産物店、老舗旅館などを手広く経営する裕福な家庭。自宅は大邸宅。まさに「玉の輿」
でも、そこで美咲を待っていたのは、世間体や格式にこだわる彼の母や、いけずな物言いの姉。なにやら、このまま社長夫人として優雅で幸せな生活が待っているとは思えない展開です。
慣れない京都での暮らしと人間関係に戸惑い、和範とも少しずつすれ違い、そして互いに違和感が生まれてギクシャクする。
このまま結婚していいのか・・・。美咲の気持ちが揺れ動きます。そんな時に10年ぶりに大学の同級生と再会。ここから、美咲の新たな光が見えてきます。
こんな風にあらすじを書いていると、ありがちな恋愛ストーリーのように思えるかもしれないですね。でも恋愛話は、この物語の裏で静かに流れる、テーマのひとつにすぎません。
この物語で描いているのは、人を信じること、そして人に信頼してもらうことの、大切さと難しさではないかと感じます。
和範との関係が微妙になってきたころ、美咲は魅力的な刺繍を施したTシャツを手作りし、オリジナル商品として販売することを始めます。
最初は趣味程度の小さな光だったかもしれないけれど、人との出会いによって、その光が明るく大きく広がっていくのです。
結婚式場の片隅で、お試しのような販売から始まり、ギャラリーでの展示会、ネット販売、大手百貨店の催事への出店・・・。
この光の広がりを、美咲は単に「運がよかった」と言う。謙遜と言えばそうなのかもしれないけれど、それは違うのです。
「運はどこからか気まぐれに降ってきたりはしない」「運が良かったと言うなら、それはあなたが周りの人に信用されていたから」という、百貨店のバイヤーの言葉通り、どれも人と人との信頼関係があってこそのもの。
信じていた人に裏切られたり、騙されたりすることがあるかもしれない。でも、どこまでも自分を信じてくれる人も絶対にいます。
この京都での生活を通して美咲が得たもの。それは、自分の進む道も、人との信頼関係も、「自分から動かないとなにも始まらない」という気づき。
自分に光が届くのを待つだけでは、いつまでも光は届かないのだと気づいた美咲は、この後きっと、自分で自分に光を当てて輝いてくはずです。
『メイド・イン京都』は、第9回京都本大賞の受賞作品。
慣れない土地での暮しで、孤独感や違和感を感じながらも、自分のやりたいこと、自分の光を見つけようとする美咲の姿。
恋愛でも仕事でも、男女問わず、美咲と似たような気持ちになることがあると思います。
そんな時、少し落ち着いて周りを見ると、そこには、信じられる人、支えてくれる人がきっといる、と思える物語です。
『メイド・イン京都』は、「京都が舞台のおすすめ小説10選」でもピックアップしています。京都の空気感が感じられる物語を選んでいますので、合わせてチェックしてみてください。










